家族信託の契約書というと、難しそうに聞こえるかもしれません。我が家も最初は全員が「なんのこっちゃ」という状態からのスタートでした。
この記事でわかること
- 実際の家族信託契約書にどんな内容が書かれているか
- 契約時に決めておくべきだった2つのこと
- 家族信託を検討する方へのリアルなアドバイス
はじめに
この記事では、実際に我が家で締結した家族信託の契約内容をもとに、ポイントを噛み砕いて解説します。「契約書に何が書いてあるのかイメージできない」という方の参考になれば幸いです。
家族信託を結んだ経緯については、親子3代で家族信託契約を結んだ話をご覧ください。
ちなみに私のケースでは不動産物件ごとに、関係者間(委託者、受益者、受託者)で締結しています
1. 信託の目的
信託財産を管理・運用し、受益者の生活を支援・福祉を確保することが目的として明記されます。
「財産を守る」だけでなく、受益者の生活そのものを支えるという視点が盛り込まれている点が家族信託の特徴です。我が家の場合、障がいを持つ叔母の生活保障を最優先に考えた内容になっています。
2. 信託財産の管理方法
実際の契約書には、以下のような内容が定められていました。
信託財産
- 信託財産は、祖父所有の不動産のうち物件①〜④(土地・建物)。なお相続税対策として新築した木造戸建2棟は家族信託の対象外。
収益の使い道について
- 公租公課(固定資産税など)・保険料・修繕費などの必要経費をまず支払う
- 収益分は受益者と受託者が相談の上で不動産の運用に必要な待機資金を残した上で、残りを受益者の生活費・医療費・施設利用費を支払う(生活費等が足りるなら、受益者への支払いがなくてもOK)
- 現金の私的利用はNG。金融資産での運用もしない。
物件の処分について
- 原則として不動産は賃貸で運用する(なるべく売らない、建て替えない)
- 経営が悪化し資金が不足する場合は、受益者と協議の上で物件を売却することもできる
報告義務について
- 受託者は年1回、受益者に対して不動産の状況(入退去履歴、発生した修繕)と収支内容を書面で報告する
- 受益者から報告を求められた場合、受託者は可能な限り対応する(努力義務)
費用の負担について
- 管理に必要な費用(管理手数料・修繕費・保険料など)は信託財産から支払う
- 不動産の運用に費用がかさみ、現金が不足する場合は受益者と受託者が協議して対応する(原則は受益者が不足分を補填する)
3. 受益者の承継順序
我が家の場合、受益権の承継は以下の順番で設定しました。
この設定により、祖父が亡くなった後も受益権が自動的に次の世代へ引き継がれます。通常の相続では都度手続きが必要になりますが、家族信託では事前にルールを決めておくことで、2次相続・3次相続までスムーズに対応できます。
4. 契約の変更・終了について
終了する場合
- 信託財産がなくなったとき
- 経済事情の変化や天災などで信託目的の達成が困難になったとき
- 受益者と受託者が合意したとき
契約内容を変更したい場合
- 受益者と受託者の合意がある場合のみ変更可能
- 受託者が義務を履行しない場合などは受益者の意向で受託者を変更できる
受益者の保護が優先されており、受託者が勝手に契約内容を変更することはできない仕組みになっています。
5. 受託者の義務
受託者になると、以下の義務が発生します。
- 善管注意義務:専門家と同等の注意をもって管理する義務
- 報告義務:年1回以上の収支報告(確定申告対応)
具体的な罰則こそ設けていませんが、受託者として仕事を引き受ける覚悟は必要です。
想定外のトラブル——突然の法定後見人選任
相続が発生して数年後、想定外の出来事がありました。
ある日突然、家庭裁判所からの通知が来て、父が後見人の立場から外されることになりました。家庭裁判所の判断により、弁護士が法定後見人に選任されたのです。
原因は2つ。1つは父が毎年義務付けられている家庭産場所への資産報告を失念して放置していたこと(←これはマズイ。当然。)、もう1つが不動産収益によって叔母の資産がある程度大きくなってきたことでした。父に原因があったといっても遅かれ早かれこのような事態になったと弁護士は仰りました。
また、厄介なことにこの弁護士が不動産のビジネス実態をなかなか理解してくれない方で、実務上の判断に融通が利かず、かなり苦労しました。日常的な管理判断や交渉ごとにも都度確認が必要となり、スムーズに動けない場面が続きました。
私が不動産事業用にと管理していた(本当はイケナイ)銀行口座の管理も弁護士が行うこととなり、私は受託者として「自分の意思で契約ができたとしても、支払いができない」状況に陥りました。支払いを行うためには、弁護士に連絡の上、家庭裁判所に確認を取った上で承認を得てから、次回の月末に支払いが行われる、という運用方法を弁護士は頑として譲らず、支払うまでに3ヶ月程度時間を要するようになりました。
結果、あらゆる対応がスピーディに対応できず、大変ストレスの多い受託業務になりました。
一番の理不尽は固定資産税の支払いです。4月中旬に通知が届いて、初回の支払期日は4月末日。どう頑張っても期日までに支払いを行えません。弁護士からは「被後見人(叔母)の財産である預貯金を受託者に預託できない」「間に合わないなら受託者が立て替えてくれ」という指示で、あまりにも腹が立ちました。信託財産に不動産収益によって得られた預貯金が含まれているにもかかわらず、です。
裁判所に異議申し立てすることも考えましたが、不動産管理会社さんやお世話になった行政書士さんが、法定後見人の弁護士と敵対することは得策ではないと、冷静に私を諭してくださったおかげで、まずは怒りを飲み込んで現在に至ります。
家族信託の契約書の中に、後見人が選任された場合の対応方針や、信託事務に関する受託者の裁量範囲をより明確に定めておけば、こうした摩擦を減らせたかもしれません。
「まさかそんなことが起きるとは」という事態は、私のように意外と起きます。契約書は「家族間の信頼」だけに頼らず、想定外のケースへの備えも含めて設計することが大切だと、身をもって学びました。
【参考】家族信託契約で後悔しているこ
契約内容そのものに大きな不満はありませんが、上記のトラブルを経験した後、「これは決めておくべきだった」と痛感したことが2つあります。
① 信託報酬を設定していなかった
我が家の契約では、受託者への報酬を特に定めていませんでした。家族間の信頼関係が前提だったため当時は気にしていませんでしたが、法定後見人として赤の他人の弁護士が他人のお財布事情に手を突っ込んでくる事態となり、イライラマックスの不動産事業の受託業務となりました。これが報酬の定めがないことにより、『責任を負っているのにタダ働き』な状況となってしまい、非常に後悔しています。(気楽なままなら特に報酬も不要だったという気持ちですが、押し付けられる『業務』となると話は別)
受託者は善管注意義務を負いながら相応の労力を費やします。「家族だから無報酬でいい」ではなく、真っ当な信託報酬を明記しておくことをおすすめします。
② 信託口座を設定していなかった
信託契約書の中で、不動産事業を行うための「信託口座」を設定していませんでした。これにより弁護士の主張「信託財産に預貯金が含まれていない」を、裁判なしに論破できず、現在の支払いの不便さに大きな重しとなっています。
コストのかかる正式な信託口座を開設せずとも、信託契約書内に指定の銀行口座情報を記して、それを管理するのは受託者であることを明記していれば、避けられたトラブルだったなと思います。
(その際には受益者が不利になることもありるかもですが)
まとめ
我が家の家族信託の契約内容を振り返ると、全体的には思いやりと真っ当さを重視した内容で、運用上大きな不具合はありませんでした。祖父が家族全員の事情を丁寧に考慮した設計をしてくれたおかげだと感謝しています。
一方で、今回ご紹介した後悔点からもわかるように、「決めるべきところは決めておかないと、予想外のことが起きたときに困る」というのが率直な感想です。
家族信託は一度締結したら長期にわたって効力を持ちます。「家族だから大丈夫」という信頼だけでなく、万が一のケースも想定した上で、専門家とともに丁寧に設計することをおすすめします。
※ この記事は実体験をもとにした情報提供を目的としています。家族信託の設計・手続きは、司法書士などの専門家へのご相談をおすすめします。


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